銀河英雄伝説 ON THE WEB

Interview

第8回 郷田ほづみ <ヤン(外伝)>「2001年 DVD制作時インタビューより抜粋」

声優になるきっかけだった故富山敬の後継に

――運命のヤン・ウェンリー役

 『銀河英雄伝説』という壮大な物語の核となっているのは、全く異なる魅力を持った2人の英雄である。そのひとり、氷のような卓絶した美貌を持ち、全宇宙を手に入れるべく戦い続けるラインハルトを演じたのは、堀川 亮。全165話通して、12年間にわたってひとりの主人公を演じ切った彼が、銀河の覇者・ラインハルトについて語った――。

 戦うために生まれてきたようなラインハルトに対し、戦争より平穏な生活を愛する人間的な魅力を持ったもうひとりの英雄、ヤン・ウェンリーを演じたのは、日本声優界屈指の名優だった富山敬(1938〜1995年)である。しかし、富山は、ヤンの死を演じた直後、まるで彼がヤンそのものであったかのように急逝――。その後を継ぎ、外伝『千億の星、千億の光』『螺旋迷宮』で、若き日のヤンを演じたのが、郷田ほづみであった。



――富山敬さんについての思いをお聞かせください。

 僕は、実は中学生か高校生ぐらいの頃、『宇宙戦艦ヤマト』(1974〜83年)という作品を見て “声優”という職業があるということを認識したんですよ。富山さんが、この道に入る、この職業に興味を持つきっかけだったという部分があるので、自分の中では、ルーツのような方なんです。『ヤマト』の古代進をいつもマネしていましたしね(笑)。そんな思い出があったので、そういう意味では本当に感慨深かったのですが、やはり、その後を引き継ぐというのは、難しいものがありましたね……。「やっぱり富山さんじゃなきゃだめ!」というファンも大勢いらっしゃると思いますので、それは凄くプレッシャーでしたね。
僕としては、皆が抱いているヤン・ウェンリーのイメージに違和感なく近づけたいと、どうしても思ってしまうので、それにはもう少し時間がかかるかな、とは思います。出来れば最初から全部録り直してやらせて頂きたいくらい(笑)。もちろん、それは当然不可能ですが、気持ちとしてはね、そういう部分もないわけではありません。だから、逆に言えば、これからあと10年ぐらい続けさせてもらえれば……、富山さんがおやりになった年数と同じぐらい、またはそれ以上の期間、演じさせてもらえれば嬉しいな、とは思っています。

――ヤンという人物について、どのような印象をお持ちですか?

 ヤン・ウェンリーは、僕の中でも、“イコール富山さん”でした。まさか自分がヤンを演じることになるなんて夢にも思っていなかったので、その驚きの方が強かったですね。で、自分が演じることになって改めてヤンをみつめ直すと、なんとなくイメージは掴んでいたつもりだったのですが、やっぱりどうしても自分で違和感を感じてしまって、気になってしまい……。そのへんは苦労しました。

――アフレコでのエピソードは何かありますか?

 『銀河英雄伝説』のキャスティングは本当に豪華で、ありとあらゆる先輩が出演されています。(いちばん最初にヤンを演じた)外伝『千億の星、千億の光』のときに、台本のキャスト表を見たら、何とも錚々たるメンバーで……。しかも、それが富山さんから後を受け継いで最初の録音です。「“富山さんの後を一体誰がやるんだ!? どんな奴が来るんだ!?”という感じで、皆さん、待ちかまえていらっしゃるんだろうなぁ、下手な芝居はできないなぁ」と、それは凄いプレッシャーでした。ところが、スタジオに向かう道が渋滞していましてね、時間に間に合わないのではないかと……。もう、裏道を擦り抜けて、ぎりぎりで到着したのですが、スタジオに入ったら誰もいらっしゃらなくて(笑)。『銀河英雄伝説』では抜き録り(※)をすることが多く、その日その時間は、僕しかいなかったんです(笑)。だから、たった独りでヤンの台詞をしゃべって、それでその日は帰りました(笑)。
それからは、ずっと前から出演されている、(井上)和彦さんとかキートン(山田)さんとか(塩屋)浩三さんなどと、ご一緒させて頂くことも多かったのですが、「富山さんのときはこうだった」とか「前はこうだったよ」などとおっしゃる方がひとりもいなくて、それが僕にとっては、とても良かったです。もし、共演者の方たちに、「郷田のヤンは違うな」などと思われていたら、非常に辛かったと思うので、現場でそんなことをおっしゃる方がいなかったのは、とてもやりやすく、ほっとしましたね。

※抜き録り:アフレコの際、声優個別に録音をすること。声優のスケジュールが合わない場合や、録り直しがあった場合などに行う。


<郷田ほづみ プロフィール>

8月22日生まれ、東京都出身。ラブライブ所属。
1983年、コメディーグループ「怪物ランド」で『お笑いスター誕生!!』に出場、10週勝ち抜きチャンピオンとなり芸能界デビュー。声優として数々のアニメに出演するほか、俳優としてテレビドラマなどにも多数出演している他、音響監督としても活躍する。
声優として出演している主なアニメーション作品には、TVシリーズ・OVA「装甲騎兵ボトムズ」(キリコ・キュービー役 1983〜84年 テレビ東京)、TVシリーズ・OVA「ハンター×ハンター」(レオリオ役 1999〜2001年 フジテレビ)、映画・TVシリーズ「テニスの王子様」(井上守役 2001〜05年 テレビ東京)、TVシリーズ「新釈 眞田十勇士 The Animation」(眞田左衛門佐幸村役 2005年 WOWOW)など多数がある。