第14回 若本規夫<ロイエンタール>「2001年DVD制作時インタビューより抜粋」
「遅いじゃないか、ミッターマイヤー……」親友を待ち続け、遂に孤独の中で逝った悲劇の英雄、ロイエンタール。その影のある複雑な二面性を演じきった若本規夫が、「帝国の双璧」と称えられたもうひとりの名将の、ミッターマイヤーとはあまりにも対照的な性格、生き様について語った。
――ロイエンタールを演じる上での苦労はありましたか?
難しい男なんですよねぇ。まず、気持ちを表に出さないでしょう? エネルギーはグーーッと抑えているのに、そのエネルギーのマグマみたいなものは誰よりも激しく、真っ赤に燃えている……。しかし、それは決して表には出さない。本当は激しい欲望、マグマ、エネルギー……、そういったものを内に秘めて、淡々としゃべらなければならない所が、本当に難しかったですね。
また、この作品は、台詞自体が、普通のアニメとは違います。漢文調であったり、非常に格式の高い言葉遣いなんです。果たして若い人たちにこの言葉が分かるのかな?というような台詞が随所にちりばめられているので、もちろん演じるほうも、そりゃあ難しいわけです(笑)。で、そういう台詞の難しさに気をとられていると、ブレスが合わなかったりしてしまう。だから、森(功至)さんと馬鹿を言いながらやりましたね(笑)実は2人とも結構緊張しているんですが(笑)、それを、「ほら、またトチった!」なんて言ってお互いのキズを舐め合いながら(笑)、慰め合ってやっていましたね。
――ロイエンタールとラインハルトとの関係について、どう思われますか?
ラインハルトもロイエンタールも、共に野心家ですからね。ミッターマイヤーは、敵を作らないタイプと言うか、虚心坦懐の人物ですから、ラインハルトから見た場合、ロイエンタールの存在のほうが邪魔になってきたのだと思います。また、ロイエンタールは、(ラインハルトの)そういう思いを敏感に感じる繊細さを持っていますからね……。具体的に行動されたり言われたりしなくても、“気”のようなものを感じ取って、ラインハルトの術中に嵌っていかざるを得なかった……、そんな2人の関係が見える気がします。
――ロイエンタールの最期を演じて、如何でしたか?
感動しましたよ。長い日数をかけて作ってきた作品が、遂にこれで終わった……!という思いもありました。ロイエンタールが、本格的に自分を出してきたのは、「第4期」で叛乱を起こして以降です。それからは、もう抑えることはしない、自分を出していく台詞が多くなりましたから、最期はやっぱり……気持ちは、相当動きましたね……。
――ロイエンタールという人物に対して、どのような印象をお持ちですか?
言葉で説明すると、いろいろあってなかなか言い表せないので、もう端的にイメージで言うと、氷の柱の中で真っ赤なバラが燃えているような、そんな感じの男だと思います。気障な言葉ですけど(笑)。
野心家であり、頭も切れるし、武将としては一見恵まれた人物ですけれど、その裏には、母親との葛藤やトラウマといった陰惨な面が隠れています。だから、ミッターマイヤーのように一言で分かりやすくはとらえられませんよね。裏と表を見て、総合的な印象でとらえると、やはり、悲劇の人だと思います。最期は非業の死を遂げて……、本人はみじめだとか悲劇だとか思っていないと思いますが、客観的に見ると、悲しい人物であったのかなあ、と思います。
< 若本規夫 プロフィール>
10月18日生まれ、山口県出身。シグマ・セブン所属。
警視庁機動隊勤務を経て声優に転じたと言う異色の経歴を持つ。出演している主なアニメーション作品には、TVシリーズ「サザエさん」(アナゴ役 1969年〜 フジテレビ)、TVシリーズ「ドラゴンボールZ」(セル役 1989〜96年 フジテレビ)、TVシリーズ「カウボーイビバップ」(ビシャス役 1998〜99年 テレビ東京、WOWOW)、TVシリーズ「魁!!クロマティ高校」(メカ沢新一役 2003〜04年 テレビ東京)、TVシリーズ「吉永さん家のガーゴイル」(ガーゴイル役 2006年4月〜)、TVシリーズ「SOUL LINK」(森本茂道役 2006年4月〜)など多数がある。