銀河英雄伝説 ON THE WEB

Interview

第20回石塚運昇 <トリューニヒト>「2001年DVD制作時インタビューより抜粋」

“言葉”で民衆を操る悪徳政治家を演じる

 巧言令色の限りを尽くした弁舌によって民衆を操作し、絶大な権力を得ながら、自らの野心のために自由惑星同盟を、――民主主義を、崩壊へと導いたヨブ・トリューニヒト。銀河の歴史の変遷にラインハルトとヤン以上に貢献したとさえ言えるかもしれない稀代の“政治家”を演じた石塚運昇が語った。



――“政治家”トリューニヒトを演じてみて、如何でしたか?

 この作品に出演するまでは、僕は、本格的にアニメの仕事をしたことがなかったんです。ちょっとした役をいろいろとやってはいましたが、こんな風に演説のような長い台詞を言う役をやったのは、初めてだったと思います。ですが、僕は、シェイクスピアを中心とした舞台の経験が長かったので、逆にやりやすかったような気がします。アニメの場合、一言二言ぽっと口をはさむような台詞のほうが、なんとなく難しい所があります。シェイクスピアには、政治劇というものがあって、そこでよく演説をするんですよね。他にも、『リア王』のエドマンド役をやったこともありますが、冒頭で登場した途端に、“私生児の俺をなんでこの世に産んだんだ”というような長い台詞をいきなりバーッとしゃべるんです(笑)。そういう経験があったから、(アニメでの初めての役が)長々と演説して、民衆を左右するような役で却って良かったな、と思っています。アニメにもこういう世界があるんだと、いい意味で新鮮でした。
何万という大衆を目の前にして、彼らをどう操り、動かしていくか……、ヒトラーがドイツの民衆をどんどん取り込んでいったような感じで、いかに自分の弁舌で他人をコントロールできるか……。さすがに、そこまで壮大には考えていないけど(笑)、やはり政治家というのは“言葉”で生きているものなのではないかなあ、とは思いましたね。

――アフレコに際して、何かエピソードがありましたらお聞かせください。

 いちばん印象に残っているのは、僕がトップの政治家(の役)で、その部下というか……、軍人も含めて、自分の支配下にいる人たちを演じるのが、大ベテランの声優さんばかりだったということですね(笑)。僕なんか、まだぺーぺーだったのに、内海(賢治)さんとか羽佐間(道夫)さんとか、あの方たちが僕の部下だったんですから……(笑)。“まいったなぁ、なんでこんな大先輩たちに命令しなければいけないんだろう”なんて、心の中で思っていましたね。諸先輩方が大勢出演していたのに、役の上では僕がいちばん偉そうで、でも、現場では、立派な先輩たちが悠々と行き来していらっしゃって(笑)。“この人たちに命令しづらいな……”と、困っていましたよ。現実世界の上下関係がいちばん気になりましたね(笑)

――『銀河英雄伝説』という作品を、どのように思いますか?

 難しい話ですよねぇ……。ただ単に“いい人”が“悪い人”と戦う、というだけのストーリーなら非常に分かりやすいのですが、同盟側には同盟側の正義があるし、対する帝国側にも帝国側の正義がある。それぞれの組織の中で人間もまたひとりひとり違うわけで……、そういう意味では、とても複雑な人間関係と組織のぶつかり合いですよね。とにかく、アニメとしては、非常に難しい作品だなあと思いましたね。
皆さんには、この長いストーリーを、DVDでじっくりご覧になって頂きたいと思っています。たとえば、夜の7時頃から夜中の2時頃まで見て、それを1週間続ければ、この世界観やストーリーの流れが大体分かると思うので(笑)、『銀河英雄伝説』という壮大な物語を是非、連続して見てください。

< 石塚運昇  プロフィール>

5月16日生まれ、福井県出身。アクセント所属。
1975〜88年までシェイクスピアシアターに所属していた。出演している主なアニメーション作品には、映画・TVシリーズ「ポケットモンスター」(オーキド博士役、ナレーション 1997年〜 テレビ東京)、映画・TVシリーズ「カウボーイビバップ」(ジェット・ブラック役 1998年 テレビ東京、WOWOW)、OVA・TVシリーズ「頭文字D」(藤原文太役 1998〜2006年 フジテレビ、スカイパーフェクTV)、TVシリーズ「ザ・サード 〜蒼い瞳の少女〜」(ボギー役 2006年4月〜 WOWOW)、TVシリーズ「FLAG」(赤城圭一役 2006年6月〜 バンダイチャンネル)など多数がある。